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4-21 副社長室で 1

last update Last Updated: 2025-06-28 14:30:45

 10時――

バンッ!!

「え?」

突然副社長室のドアが開けられ、仕事をしていた修也は何事かと顔を上げた。するとそこには翔の姿があった。

「翔!? どうして急に日本へ……!?」

修也は驚いて椅子から立ち上がった。

「どうして? そんなこと分かり切っているだろう、修也。お前があんな事電話で言うからだ」

荒い息を吐き、髪を乱した翔がずかずかと部屋の中に入って来た。

「まさか……それだけの為にアメリカから帰国してきたって言うのかい!?」

「おい、修也。それだけって何だ? お前にとってはそれだけかもしれないがな……俺にとっては一大事なんだよ!」

翔は修也のネクタイを掴み、グイッと引き寄せてきた。それは鬼気迫るものだった。

「しょ、翔……」

修也は心の底から驚いていた。口では散々なことを言われてきたけれども、今までこれほどまでに暴力的な行為を翔から受けたことが無かったからだ。

「修也。お前、まさか……もう会長にあのことを話したのか?」

翔は相変わらず修也のネクタイを掴んだまま、怒気を含んだ声で睨み付けた。

「い、いや。話していないよ。朱莉さんにも相談したけど……朱莉さん自身、どうしたら良いか迷っていたみたいだったから」

「そうか、ならいい」

翔は修也のネクタイを離した。

「いいか、修也。これは俺と明日香……そして朱莉さんの3人の問題だ。部外者のお前が口を挟むのは許さないからな」

「本当に3人だけの問題と思ってるのかい?」

「何だ? 修也。お前、一体何が言いたいんだ?」

「一番肝心な相手を忘れているよ」

「肝心な相手……一体誰だ?」

翔は怪訝そうに首を傾げた。

「翔……本当にその相手が誰なのか分らないのかい? 蓮君だよ」

修也の顔に悲しげな表情が宿る。

「蓮……? しかし蓮はまだ……」

「まだ4歳だから、自分の意思は関係ないって言いたいのかい? 確かに翔が蓮君と別れた時はまだ1歳だったけど……今は大人ときちんと会話が出来る子供なんだよ? 蓮君は本当に賢い子供なんだよ。きっとそれも朱莉さんが愛情を持って育ててきたからだと思うよ」

賢い子供と言われ、翔の口元に少しだけ笑みが浮かぶが……すぐに厳しい眼差しに変わった。

「だが、蓮は俺の子供であることに変わらない。子供は親の言うことを聞いていればいいんだ」

「翔! それでも蓮君の父親と言えるのかい!? とにかく翔がいつまでも考えを改め
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